和牛の歴史~これが国牛十図だ!!

鎌倉時代から壱岐産の牛は『よい牛』という定評がありました。

鎌倉時代に描かれた牛の産地や、産地別の特徴を図にした国牛十図。
この、国牛十図は河東牧童寧直麿によって書かれ、後年、江戸時代中期の考古学者・藤貞幹の蔵書(左京藤原貞幹蔵書の印)になりました。

この国牛十図は 、デジタルデータで国立国会図書館でネットでも見ることが出来ますが、鎌倉時代の記述に、筑紫牛(壱岐産の牛)という言葉が出てきて、壱岐は鎌倉時代のはるか昔から牛の産地として定評があったという事がわかります。

国立国会図書館デジタルデータより。国牛十図は巻物になってます。

これが国牛十図だ!!

国立国会図書館のデジタルデータに、国牛十図がPDFで見れるようになっていますが、国牛十図は、箱に入った長い巻物であるのがわかります。
鎌倉時代のものですが、保存状態が良く、牛の特徴が細部に渡って記述されています。

壱岐産の牛は昔から良い牛という定評がありました
国牛十図は広げると長い巻物になってます。
和牛について、鎌倉時代からの牛の産地
こんな感じで、牛の絵が9つ、牛についての解説が10の産地に分けて書いてあります。

この国牛十図は国学者の塙保己一が編集した群書類従の28巻に所収されていることから、その底本になっていると考えられています。
江戸時代の持ち主、 藤貞幹の序文には
『牛図は十図あるべし』とありますが、今絵が所存しているものは9つで、1つを逸してしまった可能性もあります。

国牛十図 は、牛の10の産地に分けてかいてありますが、
書いてある産地は
筑紫牛~姿がよい
御厨牛~たくましいしい
淡路牛~小柄だが力が強い
但馬牛~腰や背が丸々として頑健
丹波牛~但馬牛とよく似ている
大和牛~大柄
河内牛~まあまあというところで、駿牛も存在する~
遠江牛~駿牛だが、ややあばれもの~
越前牛~大柄~
越後牛(図はない)~力が強い
という10の産地別の牛の特徴が書かれています。
もう少し詳しく見てみると、

  • 筑紫牛は姿が良く、本来は壱岐島の産である。元寇の際に元軍に食用とされたために、一時少なくなったが近年また多くなってきた。
  • 御厨牛は肥前国(現在の佐賀県、長崎県)御厨の産で逞しい牛である。もともと貢牛であった所からの呼称で、中古の名牛の産地であった。西園寺公経から朝絵の印を許可されたという。
  • 淡路牛は小柄ではあるが力が強く、逸物も少なくない。近年、西園寺公経から御厨牛と同等の評価を得た。
  • 但馬牛は、腰や背ともども丸々として頑健で、駿牛が多い。
  • 丹波牛は、但馬牛によく似ており、近年は逸物が多い。
  • 大和牛は、大柄という特徴がある。角蹄が弱いという欠点があったが近年は良くなった。
  • 河内牛は、まあまあという所で駿牛も存在する。
  • 遠江牛は、蓮華王院領の相良牧の産である。その見かけは筑紫牛に見まがう駿牛であるが、ややあばれものである。故今出川入道太政大臣家がこの地に筑紫牛の血統を移入させたものという。
  • 越前牛は、大柄で逸物が多い。
  • 越後牛(図無し)は、力が強く、まれに逸物がある。この牛の図はない。

と詳しく産地別に牛の特徴について書かれています。
この国牛十図にしっかり壱岐産の牛について書かれているのが、壱岐牛の古い歴史が証明されていて、昔から壱岐産の牛は『よい牛』として、その姿かたちに定評があったことを物語っています。
『元寇』という言葉が歴史を感じます。

壱岐島は、鎌倉時代の昔から牛の名産地だったんですね。

壱岐牛の歴史
筑紫牛(壱岐産の牛)が 国牛十図の一番目に書いてあります。

牛の名産地の特徴

『よい牛』が育つ土地というのは、昔からそんなに変わっていないのがわかります。
それは、その産地が良い牛を育てるのに適した気候、風土であったり、伝統であったり、筑紫牛(壱岐産の壱岐牛)もそうですが、但馬牛や淡路牛、大江牛など、現在も牛の産地として有名な土地が多いのが面白です。

良い牛が育つのには、適した風土などの環境があって、それは案外鎌倉時代から同じなのかもしれないですね。

「和牛の産地による銘柄がいろいろあるけど、和牛だったらどれも同じじゃないの?」
と思われている方も、確かに、味だけで産地を判別するのは難しいと言えます。

各産地の銘柄牛どれも美味しい。
それも間違いではないと思いますが、
日本は南北に長く気候の差も大きく 南国で育った牛と、雪が多く寒い土地で育った牛では、水分を摂る量や汗をかく量なども異なるので、肉質や脂質に違いは出ます。

また、牛の名産地はたいがい米や穀物の名産地とリンクしていて、穀物がスクスクと育つ恵み豊かな土地で、美味しいエサを食べてのびのびと育った牛が美味しいというのは言えると思います。

『良い牛』が生産される産地の一番の特徴


脂の甘味や肉のうまみサシの美しさは、牛の血統、自然環境もそうですが、生産者の想い、愛情を込めて丁寧に育てているなど、数字に表れない部分も多いと思います。

牛を生産していて、なぜ肉の質に差が出るのか、それはどこで生まれ育ったかという産地だけではなく、餌の良し悪しだけではなく、牛にいかにストレスを与えないようにきめ細やかに愛情深く育てるかというのが大事だと肥育農家として感じています。

それは数値には表しにくく、マニュアル化もしにくく、ましてやAI等でシステム的に管理できるものではなく、できるだけ牛にストレスを与えないようにしたいという気持ちを持って、どれほど『愛情』を込めて牛を育てるかが大切です。

そして、昔からの牛の名産地になっているところは、牛と人間が深い関わりをもって、牛を大切に育て、牛を大切に食すという文化が土地のDNAとして、伝統的にはぐぐまれている産地が名産地になっているような気がします。

壱岐牛は昔から良い牛として定評がありました